令和2年度(第74回)芭蕉翁献詠俳句特入選作品 連句の部

2020.10.09

北原 春屏

林  転石

宮川 尚子

西田 青沙  共選(五十音順)

 

     特選

半歌仙『旅立ち』の巻   京都府 古都連句会

廣瀬 松石 捌

 

行春をあふみの人とおしみけり   芭蕉翁

 柳の門をくぐる旅立ち       井尻 荷葉

暮遅し猫があふるる港にて      冬日庵訥平

 八十路の大工未だ現役       出来 千苑

月出づとそろりと仕舞ふ道具箱    竹本 俊世

 赤い羽根をと声を張る子等     岡本 利英

駅前の案山子も笑みてがんばれと   廣瀬 松石

 太刀洗ふてふ戦跡の川           荷

お姫様輿入れ従者千余人           訥

 庭師との恋秘めて激しく          千

四阿に媚薬の香り充つる宵          俊

 塀の向うを竹竿売りが           利

パナマ帽伊達な遺影に時止まる        松

 梅雨の雲間に久方の月           荷

無言行遂に阿弥陀の声を聞く         訥

 思索の小径足取り軽く           千

目と鼻の先に揺れます花の枝         俊

 遠き蛙に一日終はりぬ           利

  

       令和二年六月一日 満尾   文音

 

 

     入選

半歌仙『丈六に』の巻      千葉県 芝犬の会

武井 雅子 捌

 

丈六にかげろふ高し石の上       芭蕉翁

 少し傾げる春の絵日傘          武井 雅子

ネーブルをフルーツパフェにあしらひて  棚町 未悠

 小学生と囲碁の対局          吉田 酔山

叔父さんの足取り軽き月の街       山田美代子

 新蕎麦誘ふ幟はためく             悠

濁酒ショートショートの筆進み          雅

 宇宙人ともボディタッチで           代

脳髄が痺れるやうな愛を受け           山

 駿河湾より秀麗の富士             雅

マジシャンの舞台の下は活断層          悠

 陰性陽性早変りして              山

何処よりなんくるないと祭笛           代

 泛ぶ繊月ふはと蛍               悠

糠床の手入れをさをさ怠らず           雅

 ラインにいつも感謝感謝と           代

懸命に咲いて大樹の花吹雪            山

 詩集繙く囀の中               執筆

   

          令和二年五月十八日 満尾 文音

 

 

     入選

半歌仙『梢より』の巻        京都府 春塘

岡本 利英 捌

 

梢よりあだに落ちけり蟬の殻      芭蕉翁

 床を拭きあげ夕べ涼しき         清水 一楽

碁仲間の長居べつたりきりもなし     岡本 利英

 酒の肴にするめ炙れり             一

一筋の煙よぎりぬ月の面             利

 さはに急げる秋の小流れ            一

鬼女出ると伝ふる山へ茸狩            利

 人の妻とはついぞ知らざり           一

袖振りて万葉の恋奔放に             利

 アメフトボールパスが外れて          利

鉛筆を耳に競馬の予想せり            一

 休校の子の諳んずる九九            利

マスクして化粧のいらぬ気楽さよ         一

 寒月の夜は風呂を熱めに            利

呵呵大笑老人会の皆矍鑠             一

 ぽつくり寺へはずむ賽銭            利

櫂の音を追ひかけてゆく花筏           一

 浮雲ちぎれ午後ののどらか           利

   

          令和二年五月二十日 満尾 文音

 

 

     入選

半歌仙『半日は』の巻     兵庫県 つばさ連句会

八尾暁吉女 捌

 

半日は神を友にや年忘れ        芭蕉翁

 社家町筋にひびく寒柝           八尾暁吉女 

カメラマン駅のベンチにくつろぎて     宇野 恭子

 木彫りの鯉は飛び跳ねるごと         暁吉女

有明に豆腐屋はやも動く影            恭子

 慣れた手付きで銀杏を剥く          暁吉女

ハロウィーン魔女があちらこちらにも       恭子

 おもちや箱からちらりロボット        暁吉女

時疫には係はりもせず雲流れ           恭子

 暇がなにより角の交番             恭子

ほめられぬ御仁ばかりと恋に落ち        暁吉女

 遍歴の果てひとり親にと            恭子

蛍みな寝ねし棚田におそき月          暁吉女

 音色かろやか火箸風鈴             恭子

好奇心それが力と百寿翁            暁吉女

 甲子園への夢は今なほ             恭子

歌垣の山を彩どる花並木             恭子

 うすむらさきの夕霞立つ            執筆

   

       令和二年五月二十二日 満尾 FAX文音

 

 

     入選

半歌仙『田毎の日』の巻 富山県 いなみ連句の会

杉本 聰 捌

 

元日や田毎の日こそこひしけれ    芭蕉翁

 賀状に友の絵筆流麗          杉本  聰

質問の多き子の目輝いて        密田 妖子

 アンドロイドはいつも完璧      村戸 弥生

月面をはしやいで跳ねる宇宙服         聰

 触るるや弾く端紅の種            妖

白塗りの殿さまが出る村芝居          弥

 惜しき誰彼コロナ禍に逝き          聰

単身の赴任案ずる若き妻            妖

 見かけ程にはもてぬあのひと         弥

なりすまし詐欺の手口にご用心         聰

 木の葉木の枝擬態する奴           妖

起し絵の人影伸びる月明かり          弥

 縁台将棋果てぬ父と子            聰

呑みに寄る寿司屋の親爺同級生         妖 

 恵比須大黒距離のほど良し          弥

飛花落花世は移りゆく移りゆく         聰

 サイクリングロード逃げ水を追ふ       妖

   

        令和二年五月二十八日 満尾 文韻

 

 

     入選

半歌仙『干鮭も』の巻   富山県 いなみ連句の会

宇野 恭子 捌

 

干鮭も空也の痩も寒の内        芭蕉翁

 隙間風入る小さき草庵         宇野 恭子

地の物をひさぐ露店をひやかして     北野眞知子

 散歩の犬のなぜかじやれつく      大島 朋子

なぎさへと月光砕き寄する波       密田 妖子

 村芝居では太鼓打つだけ            眞

裏年と詫びて見事な柿届く            恭

 アラフォーになりやつと嫁いり         妖

ここち良き寝息の君は腕の中           朋

 世間知らずが越えた山坂            恭

現ナマが溝板選挙決めるとか           眞

 イージスアショアご破算となる         朋

補聴器で平家琵琶聞く夏座敷           妖

 田植の衆と月に乾杯              眞

戦禍の地巡る慰霊の旅に発つ           恭

 亀の看経あぶくぷくりと            妖

花爛漫注連新しき大鳥居             朋

 イーゼル肩に弾む野遊            執筆

   

         令和二年六月二十八日 満尾 文音

 

 

     入選

半歌仙『木曽の秋』の巻    長野県 河童連句会

矢崎 硯水 捌

 

送られつ別れつ果ては木曽の秋     芭蕉翁

 列を正してとんばうの群れ        矢崎 硯水

月の客大吟醸を手土産に         杉本さとし

 寸暇惜しんで鼎談をせん           硯水

ハ短調いつしか変はるト長調         さとし

 アロマを焚けば些かの涼           硯水

桜桃忌乳色の街彷徨ひて           さとし

 水晶のよな涙ぼろぼろ            硯水

誰彼にすがりて仮面舞踏会          さとし

 小型拳銃挟むガートル             同

海賊の多きカリブの海の旅           硯水

 聖樹囲んで歌ふ賛美歌           さとし

電波飛び世界つながり月も冴え         硯水

 在宅勤務これは楽ちん           さとし

ひもすがら猫撫で声で猫呼んで         硯水

 ふざけ鴉が屋根で代返           さとし

花ふぶき見上げる空は万華鏡          硯水

 此岸彼岸をむすぶ初虹           さとし

   

    令和二年六月二十七日 満尾 インターネット

 

 

     入選

半歌仙『花に来にけり』の巻  愛媛県 白水台連句会

大月 西女 捌

 

阿蘭陀も花に来にけり馬に鞍      芭蕉翁

 手を翳し見る城のおぼろげ        大月 西女

凧作り尾の長さには拘りて        名本 敦子

 工事現場は臨時休業          岡田伊勢子

芸をするインコの動画おもしろく     大西 素之

 初曙に白みゆく月           山本あとり

結跏跌坐淑気充たして座禅堂       杉山 豚望

 断酒の誓ひ妻に迫られ            素之

あれれのれまた赤ちやんができちやつた    伊勢子

 裏の沼地で蟇がげろげろ           敦子

コロナ禍をやうやく逃れ夏の果        あとり

 露湿りする魔女の黒靴           伊勢子

月の下日干し煉瓦の町眠り           素之

 榲桲の香の強く匂ひて            豚望

マヌカンの勧め上手にまた試着         敦子

 神となりたる母へ玉串           あとり

あでやかに菰より覗く寒牡丹          西女

 鯛焼食めば心ほつこり            豚望

       

           令和二年五月七日 満尾 文音

 

 

     入選

半歌仙『曙は』の巻    愛媛県 愛媛県連句連盟

名本 敦子 捌

 

曙はまだ紫にほととぎす        芭蕉翁

 窓を開ければ麦の秋風          名本 敦子

糸底に陶工の銘彫り入れて        大西 素之

 小さきロケットのぞく胸元       岡田伊勢子

桟橋に高速艇を待ちながら        大月 西女

 月に凍てつく髭の銅像         杉山 豚望

加賀の宿なれば治部煮を所望せん        敦子

 遠くに響く素囃子の音            素之

来ぬ人を遅し遅しと身を焦がし        伊勢子

 恋の女神はなんと意地悪           西女

少しだけ未練残して蛇穴に           豚望

 木犀香る官邸の庭              敦子

アマビエの影蹤いてくる月の下         素之

 消えよ新型コロナウイルス         伊勢子

飲み会もヨガも会議もオンライン        西女

 子猫をふはと抱ける幼子           豚望

踏み出せる夢への一歩花の門          敦子

 振りさけ見れば淡き初虹           素之

   

         令和二年五月二十五日 満尾 文音

 

 

     入選

半歌仙『木曽の痩も』の巻  愛媛県 白水台連句会

大月 西女 捌

 

木曽の痩もまだなをらぬに後の月   芭蕉翁

 たまさか雁の渡りゆく声        大月 西女

仏掌薯土付きのまま置かれゐて     杉山 豚望 

 ペティナイフの銘がうつすら        西女

喫茶店研究資料読む博士           豚望

 暖炉の前でねまるシェパード        西女

聖樹より金銀の星零れ落ち          豚望

 目に見えぬもの風のまにまに        西女

ばい菌は角も尻尾もとんがつて        豚望

 草に隠るる恋のほうたる          豚望

羅に三十路を包む未亡人           西女

 寡黙な背にそそぐ情愛           豚望

スコッチの残りをぐいと呑み干して      西女

 初荷の幟揺らす有明            豚望

子と親の夢はいつでも擦れ違ひ        西女

 春を惜しみて蘇利古舞ひ出し        豚望

魚ごごろあれば寄り添ふ花筏         西女

 友と連れ立つ陽炎の丘           執筆

   

     令和二年五月二十九日 満尾 ゐのしし庵

 

 

     入選

半歌仙『夏座敷』の巻  鹿児島県 南さつま連句会

五郎丸照子 捌

 

山も庭に動きいるるや夏座敷      芭蕉翁

 武者人形の眉のりりしく        林 レイ子

部活の子かけ声高く駆け行きて      五郎丸照子

 向こう岸へと渡し舟待つ        入料美恵子

はらからと故郷の酒酌む月の宴         照子

 添水の音の遠く近くに           レイ子

金髪の魔女も繰りだすハロウィーン      美恵子

 ちょっとドギマギ君のウインク        照子

年の差を反対されて燃え上がり        レイ子

 引っ越し疲れ癒す銭湯           美恵子

桜島臨む突堤釣り師達             照子

 卵サンドと紅茶バックに          レイ子

願かけて凍てつく月に手を合わせ       美恵子

 僧庵囲む白き侘助              照子

膝痛にシップ貼りくる元ナース        レイ子 

 羊数えて夢の世界へ            美恵子

友来る花の一枝を携えて           レイ子

 くるくるくると春日傘舞う          照子

   

    令和二年七月二日 満尾 店遊び「萌」・文音

 

 

     入選

半歌仙『杜若』の巻        愛知県 桃雅会

寺田 重雄 捌

 

杜若語るも旅のひとつ哉        芭蕉翁

 梅雨空見上げ酒を組む宿         寺田 重雄

鳥影の山の彼方へまつすぐに       中森美保子

 少女の鳴らすピアニカの音       畔柳名美子

眺めれば川面に映る月の光ゲ           雄

 秋の袷をしやつきりと着て           保

敬老の日にご褒美の祝ひ菓子           名

 古都に残れる伝統の技             雄

お揃ひの根付細工のストラップ          保

 逢ひたいけれど今は逢へない          名

街中が自粛自粛で気が詰まり           雄

 ノルマ五キロのウォーキングする        保

月天心覗く暖炉の燃ゆる部屋           名

 寒復習して満点を取る             雄

亀に餌やるけどなぜか知らん顔          保

 畑打終へてほつと息つく            名

飛花落花有為転変の花の彩            雄

 春の匂ひに触れる歓び             保

   

令和二年七月二十一日 満尾 熱田神宮文化殿及び文音

 

 

     入選

半歌仙『下涼み』の巻   山梨県 アルプス連句会

功刀 太郎 捌

 

命也わづかの笠の下涼み        芭蕉翁

 蟬の裳脱のとまる石垣         海老名 雅

若き知事フットワークも軽やかに         仝

 情報源はスマホ一台          功刀 太郎

月兎耳をそばだて何を聞く            雅

 吹くともなしに秋の初風            太

草の市はかなきものを選びゐて          仝

 脱サラで焼く李朝めく碗            雅

軽トラでパートの妻をお出迎へ          太

 つはりやうやく楽になる頃           雅

入相の鐘も侘しき当麻寺             太

 暖簾とり込む門前の店             仝

かかる世を辛くも生きて日記果つ         雅

 冬ざれの川われと月影             太

採集の化石を愛でる老学者            雅

 膝から猫の降りて伸びする           太

雨雲に花の大樹のちから満ち           雅

 春を惜しみて酌交はす酒            太

   

           令和二年五月九日 満尾 文音

 

 

     入選

半歌仙『暑き日を』の巻 岡山県 岡山県連句協会・昴

衆議判

 

暑き日を海に入れたり最上川     芭蕉翁

 砂丘を覆ふ赤き玫瑰          藤原みきよ

淹れ立てのコーヒーのうまき店に来て  畑  霜月

 環境守るレジ袋代          小林 美鈴

眉月のやさしく照らす吾子の顔     今村 華紅

 ちちろ鳴き止む父の靴音          美鈴

衣被備前の皿にこんもりと          華紅

 酒の当など無くていいから         華紅

老いらくの恋は先行知れぬ旅        みきよ

 此の頃とみに上る血圧           霜月

アマビエの菓子頭から丸かじり        美鈴

 猫を相手に指し手考へ           華紅

相輪に少し掛かりて冬の月          霜月

 軒に氷柱の伸びてゆく刻         みきよ

ゆつたりと肩までつかる露天風呂       霜月

 藍のスカーフ風になびかせ         華紅

花疲れ優先席へ迎へられ           美鈴

 春の霰に眠り覚まさる          みきよ

   

    令和二年七月十八日 満尾 きらめきプラザ

 

 

 

     入選

半歌仙『月華の』の巻  東京都 俳諧シルヴプレ

両吟

 

月華の是やまことのあるじ達     芭蕉翁

 風に舞ふ鳥肩先に連れ         西川 菜帆

夏怒涛管弦の間に遊ばせて       佛渕 雀羅

 土用蜆の汁のふつふつ            帆

カンバスの中で黄金になる玉兎         羅

 小田刈る舟のやすむ木の株          帆

剣客が商売になる冬隣             羅

 鬼の上司の情け身に入む           帆

ひつそりと進むきいちのぬりゑなり       羅

 レントゲン写真しろく骨格          帆

前世より約束されし赤い糸           帆

 やきもち焼かぬ性のかなしき         羅

波斯の姫の小筥の涙壺             帆

 あんなに降つた雪のやむらし         羅

スケボーで凍月摑み宙返り           帆

 ランドセルには春帽を入れ          羅

天使らの分け前もある花の宴          帆

 田螺のもどる村の幸ひ            羅

   

 令和二年七月十三日 満尾 東京北区COCO,S

 

 

     入選

半歌仙『露とくとく』の巻 岡山県 岡山県連句協会昴連句会

髙橋つらら 捌

 

露とくとく試みに浮世すすがばや    芭蕉翁

 時に方向かへる蜻蛉           髙橋つらら

庭木刈り計が入つたと嬉しげに      伊藤  航

 坊主頭を並べ観る月              ら

希望てふ筆の二文字紙いつぱい          航

 滝のしぶきは不規則に飛び           ら

含羞草互ひに真似る姉と妹            航

 ホームランでもハイタッチせず         ら

清廉で雲の上なるひとを得て           航

 知らぬが仏婚外子あり             ら

差押さへ札の貼られし桐箪笥           ら

 残されたのはボンネットバス          航

道の駅鋏あげたる松葉蟹             ら

 雪月夜とて秘蔵酒を酌み            航

チャペルから鐘の音響き渡る頃          ら

 作り笑顔がいつも笑顔に            航

花衣同窓会は四年ごと              ら           

 都踊りの案内到着               航

   

           令和二年七月七日 満尾 文音